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喫茶ま・ろんど

TSFというやや特殊なジャンルのお話を書くのを主目的としたブログです。18禁ですのでご注意を。物語は全てフィクションですが、ノンフィクションだったら良いなぁと常に考えております。転載その他の二次利用を希望する方は、メールにてご相談ください。

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女渡り2

「……はじき出されたか。良いとこだったのになぁ。まあ、吊り革掴んで寝てる程度じゃあ、そりゃあ眠りも浅いよな。そんな状態であんなことされたら目が覚めるのも当たり前か」
 使い慣れた万年床から起き上がりつつ、首を左右に傾けてコキコキと鳴らす。
「だるいなあ。体はずっと寝てる訳だから、疲れてない筈なんだけど。意識が覚めっぱなしだと違うのかな」
 右手で肩をほぐしながら、左手を布団の外に伸ばす。
「あれ。煙草……」
 と、そこまで言って、思い出して舌を打つ。
「ああ、そうだ。やめたんだった」
 苛立ちをごまかすように左手を頭に移動させ、髪を無造作にかきむしる。肩を揉みながら頭をかき、それと同時にため息をつくという、なんともせわしない動きだ。
「ま、どうしても吸いたくなったらまた適当な奴に入れば良いからな」
 首をぐるぐると回し、未だ肩の重さがほぐれないのを、不快に感じて眉間にしわを寄せる。
「つつつ……。歳だなあ。四十肩にはまだ早い筈なんだが」
 最後に、頭の上に思い切り腕を伸ばして力を抜く。
「んー……。十一時か。こんな夜中に戻ってもやることないなあ。もう一回、また誰かに入って遊ぶとするか」
 そうは言うが、昼夜を問わず最近は殆どがこのような様子だ。自分の体で居る時と言えば、食事かトイレか睡眠かのどれかしかない。
 仕事も辞めて、外に出るのはカップラーメンと清涼飲料水の買いだめする時ぐらいだ。
 それがおかしいことだと感じない程度に、彼の感覚はマヒしていた。
「さて、じゃあ誰にするかな。さっきみたいに適当な女に入るのも悪くはないけど……。無難にマーキングしてる奴にするかな。この時間なら……キョウコが楽しそうだ」
 言って、万年床に潜り込む。まぶたを閉じ、ゆっくりと深呼吸する。呼吸が徐々にゆっくりになる。そして、不意に、体が小さく震えた。
 その瞬間、彼の心は、五百キロ以上も離れた場所へ、一瞬で移動した。



 騒音に襲われ、頭を揺らす。
 体自身は聴き続けていた音だ。しかし、数秒前まで無音の自室で目を閉じていた彼は、頭を殴られたような衝撃を感じた。音楽に合わせて、頭の奥やら腹の底が振動するのを感じられる。
 赤に青に黄色に白に明滅する光の刺激が、音と相まってめまいを感じさせる。頭痛を覚えるほどの刺激だ。あまりの刺激に耐え切れず床に座り込んでしまう。
 周りにひしめいている男女は、ほんの一瞬目を向けただけで、あとはもうどうでも良いというふうに意識を逸らし、元のように踊りに興じた。
「キョウコ、大丈夫ー?」
 騒音に張り合うかのような金切り声が「キョウコ」の耳に飛び込んでくる。この騒音の中で聞き取れるという事実だけで、相当な音量なのだと判断出来る。
「んー……。あー……。あはは、ゴメンゴメン。ちょっとクラっときただけだから。ヘーキだよー」
 グルリと周りを見渡して、予想通りの場所にいることを確認してから張り合うかのように腹の底から声を出した。
 平気とは言ったが、実際のところ、妙に頭がフワフワとして考えがまとまらない。それに加え、眠っていたわけでもないキョウコの身体にすんなり入り込めたという事実が、キョウコが正常な状態でなかったことを指し示していた。
「やっぱ飲みすぎたんじゃないの?」
「逆、飲み足りないからクラっとしたんだってば。もう何錠か貰ってくるわ」
 そう言って「キョウコ」は、手もとのハンドバッグを探り財布を取り出すと、友人には目を向けずに、人込みをかき分けて奥へと歩いていった。

「ねえねえ。薬ちょうだいよ」
 スキンヘッドに声をかける。上半身裸でジーンズしか身につけていないその外見は、筋肉に包まれておりキョウコより二回りも三回りも大きい。「キョウコ」でなければ決して関わることもないし、関わりたいと思う事すらないだろう人間だ。
「ああ? またかよ。さっきのはどうしたんだよ」
「飲んだけど効かなくてさー。もっと強いの無いの?」
 実際にはかなりしっかりと効いている筈だ。だからこそ容易くキョウコの身体を操ることができているのだ。しかし、それはキョウコの話であって「キョウコ」の話ではない。
 何も飲んでいない「キョウコ」の精神は未だ正常を保っていた。
「ったく、仕方ねぇなあ。じゃあアレ、やるか?」
「サンキュ。じゃ、これで」
 中身を見もせずに財布を丸ごと投げ渡す。
 キョウコの金がどうなろうとも、今の「キョウコ」にとっては全くどうでもいいことなのだ
「相変わらず太っ腹だな。ま、こっちとしちゃありがたいがね」
 スキンヘッドは、いかにも上機嫌といったふうに口元を歪めながら財布の中身を数枚抜きだして数える。数え終わってから、もう一度同じ動作を繰り返すと、ジーンズのポケットから無造作にプラスチックのケースを取り出し、「キョウコ」に渡した。
「ありがと」
 それだけ言うと「キョウコ」は、その場でケースを開けた。
「おい! いつも言ってんだろうが。トイレかどっか、人の居ないとこで打てって」
 先端の鋭くとがった注射器を取り出そうとしたところで「キョウコ」は腕を掴まれた。
「あはは、平気だってー」
「お前が平気でも俺はやばいんだよ。いつもの錠剤は合法だけど、そっちは違うんだからよ」
「はあ、分かったわよ。仕方ないなあ。トイレでやってくれば良いんでしょ。ったく」
 不機嫌そうに「キョウコ」は注射器をしまった。
「分かれば良いんだよ。ああ、それと、分かってるとは思うけど、打つなら足首に打てよ。下手なとこに打つと注射痕が目立つからな」
「いちいち言わなくても分かってるって。うるさいなあ」
 そう言うと「キョウコ」は、足早にトイレへと向かって歩き始めた。
「あ、おい、財布……。まあ、もらっとくか」
 そう言って男は、キョウコの財布から札だけを抜き取ると、無造作に床に放り投げた。

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